八葉鏡の徒桜

エピソード10−5:乱戦を拓く刀

 

 武神たちの間に、言葉は不要だった。

 やや左後ろにサイネを置いた形で、若干先行して距離を詰めたユリナ。あまりに迷いのない踏み出しは、何も自分たちの刃をいち早く届かせたいがためではない。

 彼女たちは理解しているのだ。

 大鎚という武器の、難しさを。

 

「やあぁぁぁ!」

 

 威嚇するように吼え、間合いに立ち入るユリナ。狙いを悟らせないよう、互いに距離を取る大鎚の担い手たちの間へとひた走る。

 対する相手は、破壊力の権化たるその得物を盾とするように受けの姿勢を選んでいた。向こう側のハガネは迅速にその判断を成していたが、創られた鎚のメガミの顔には大きな迷いが窺える。

 

 相手の反応に、ユリナは即決でハガネへの肉薄を選んだ。

 気迫と共に低い姿勢で一気に最後の間合いを詰め、ハガネの胴めがけすくい上げるようにして刀を振るう。

 

「ふッ!」

 

 その切っ先は大鎚の柄に阻まれるが、力を抜いたその一太刀は牽制。弾かれた勢いを利用して刃を引き戻し、重ねた喉元への斬撃が生け贄とした結晶を攫う。

 ハガネはそこを得物をただ振り下ろしての圧殺を狙ってくるが、脇に空いた死角へ飛び込むことで回避を叶える。既の所で大鎚を一回り小さくし、不覚の表情と共にくるりと縦に回転させて盾とするが、ユリナの振り向きざまの一刀は過たずにハガネへと吸い込まれる。

 

「くっ……!」

 

 追撃を嫌ったハガネが手をかざすと、散った彼女の光ごとユリナが反発力に押し戻される。胸を突く衝撃にたたらを踏みそうになるのを堪え、今一度前へと重心を傾ける。

 大鎚は確かに圧倒的な破壊力を有する得物である一方、痛打を為すのは容易ではない。巨大化させた大鎚はいかにメガミとて振り回すことは難しく、勢いを溜める必要がある上、懐に入った敵には当てられない。故に大鎚使いは、後退と共に回転して遠心力を吹き込むのが定石だが、ハガネたちは満足に背後を使えない理由もある。

 

 距離があるとはいえ、彼女たちは今、十全に動けないメグミを背にしている。的確に間合いを支配してくるユリナたちに、ハガネがどっしりと構えたのは、守りを念頭に置いてのことだろう。

 本来、守りに向かない得物であるがゆえに、多くの使い手は無垢なる鎚のメガミのように判断を迷ってしまうのが普通だ。見た目と反して繊細な立ち回りを要求され、どっちつかずの動きになってしまうミコトをユリナはいくらでも見てきた。

 

 だが、向こう側のハガネの立ち振る舞いは、円熟さを感じさせてならない。ユリナの知るハガネとは、思考も、そして力の方向性さえも同じではないと理解させられる。

 一撃に重きを置き続けるのではなく、協調を見据えた戦い方。

 そこに至る背景は想像し得るものだったが、少数戦に持ち込んだ今、攻めの恐ろしさでは劣るのだと、ユリナの攻勢を緩める理由にはならなかった。

 

「天音っ!」

 

 次の一合に向け、一歩を刻もうとしていたところへサイネの声が響く。

 桜霞を棚引かせた鎚のメガミが、無理やりユリナへ飛び込んでくる。膨張していく大鎚が巻き上げる砂塵が、ユリナから選択肢を奪わんとする。後ろがだめなら前をとばかりに、痛打を捻り出そうという動きだ。

 しかし、サイネの声色に焦りがないことをユリナは理解している。焦っているのは、鎚のメガミのほうだ。

 

 ユリナは踏み切るための一歩で止め、斬華一閃をハガネへと投げつける。

 さらなる牽制のためにこちらへ詰めるサイネを視界の端に認めてから、一瞬目を閉じ、背中で砂礫を甘んじて受け止める。腰だめに構えたユリナの右手には、再び顕現せし、斬華一閃の収まる鞘。

 

 キィン、と響き渡る硬質な音色。

 大質量の得物を従えてきた鎚のメガミが、砂嵐の中に潜んでいた衝音晶に弾かれる。

 

「う、っ――」

 

 ユリナの胸元に飛び込まんばかりだったその勢いが殺され、遊んだ大鎚がユリナの右を掠めるように頭を地面に擦り付ける。

 鎚のメガミが半端に放り出されたのは、ユリナにとって必殺の間合い。

 開眼、抜刀し、反転しての力強い居合斬りが敵を穿つ。

 

 しかし、瞬き一つもしない刹那の間に、ユリナの視界がぐにゃりと歪んだ。

 直後、その胴を刃先が捉えようとしていたのに、鎚のメガミの位置がどうしてかより前へと移り変わっていた。

 

「……!?」

「が、ぁ……」

 

 勢いのない刀の根本が、いっそ殴打するかのように鎚のメガミの横腹を打ち据えた。ある程度刃が食い込んだところで強引に振り切ってしまう他なく、小さな身体が弾かれ、二度地面を跳ねたところでようやく受け身を叶える。

 奇妙な間合いの変化はメガミが弾く算盤珠によるものだと、ユリナの経験が答えを返す。認識と現実、双方の計算を狂わせる権能だ。シンラたちの方へ誘導されていたはずだが、ついに戻ってきてしまったようだった。

 

 けれど、増援は好機を見捨てる理由にはならない。

 斬られた鎚のメガミが、不自然に距離を離していく中、得物を手放してしまった彼女を追撃するのは氷色の影。

 その手にした水晶が、動きを封じていたハガネの桜花結晶たちと共鳴する。

 

「うわっ――」

 

 生まれた反発が、狂わされた距離感を越える推進力となる。

 再び攻撃を受け継いだサイネの薙刀が、流麗なる連撃を生み出した。

 

「はぁぁッ!」

「やめろぉっ!」

 

 堪らずハガネが助け舟を出し、がむしゃらに巨大化させた大鎚がサイネの手前で重みに耐えかねて落下、動きを拒否する激震と化す。

 ユリナはハガネのその隙を狙うが、蜂の群れのように飛来する無数の算盤珠に深追いはせず、追撃を切り上げたサイネと無言で背中を合わせる。

 

「ふーっ……」

 

 相手の援護に新たに一柱付き、これで二対三。けれど、互いを深く知らぬ者たちが、互いに互いを研磨し続けてきた武神たちに勝る道理はなかった。

 桜花決闘の最高峰は、戦場をも選ばない。

 意思を一つにした武神の連携に、付け入る隙などありはしない。

 

 

 

 

 

 軌道の入り乱れた散弾を、一つ一つ、あるいはまとめて、薙刀の刃が撃ち落とす。

 中距離からの援護に徹する算盤のメガミの攻撃は、あくまでサイネたちの注意を手元から逸らすためのものでしかなかった。元々戦闘向きではない得物や権能である以上当然の判断であり、生まれたてとはいえ相手も己の領分をわきまえている。

 

 援護射撃が、サイネの攻めに間隙を生む。一つ一つの妨害に歯噛みすることはないが、戦いの旋律が乱されているのは事実だ。

 与えられた攻防の狭間に、次の一合を思う。そしてそれは、相手もまた同様だ。

 けれど、サイネの耳が捉えたのは、現状に苦悶する声だった。

 

「う、うぅぅっ……!」

 

 相対していた鎚のメガミが、苦渋を吐き漏らしている。まるで自らの不出来に苦しんでいるような、後悔にもがく声だ。

 生を享けたばかりの者が口にするには重みがあり、強く表に出すほどの感情が窺えなかった新生メガミからのものとは思えなかった。だが、それでも分かる声に乗った意思の薄さが、主が誰なのか明確に教えてくれる。

 

 訝しるサイネは、直後生まれた絶対的な変化に歯噛みした。

 鎚のメガミがいた場所でメガミの気配が解け、傍らのハガネへと移りゆく。サイネの盲目に映し出されることのない光は、持てる力が還元された桜の輝きに他ならない。

 

「な……!」

 

 見聞きしたことがなくとも、サイネにはこの現象が理解できる。理解できてしまう。

 何故なら、史実にも語られる貴重な生き証人と、今まさに肩を並べているのだから。

 己を捧げるメガミ。

 生まれた目的を果たせないのならば、とばかりに意思を継ぐ。

 もちろん、限られたその力も。

 

「サイネさん!」

 

 叫ばれた名が、警戒を呼び起こす。引き締めた意識が、得物を握る手に力を籠める。

 如何に誉れ高き武神とて、希少に過ぎる現象を前に最適解は確信し得ない。強いて言うならば、観察こそが二柱の選んだ正解だった。

 存在を受け継いだハガネが、ぽつりと零す。

 

「ありがと……」

 

 戦場に滲ませるのは、十重二十重に折り重なる情緒の音色。

 そして、預けられた力の発露が大地を砕く。

 随所に亀裂が生じた直後、轟音と共に数多の地面が鋭い棘のように次々と隆起する。

 敵を無慈悲に貫く無数の槍が、サイネたちに襲いかかる。

 

「っ……!」

 

 踊らされるように足を運び、剣山の様相を呈していく戦場を逃げ回る。一度足を止めればすぐさま矢衾の如く貫かれるのは道理であり、胸元まである棘が薙刀の取り回しをも妨げる。

 大規模にして強烈な攻勢に、反撃の余裕などあろうはずもない。

 足の裏から伝わる微かな振動を頼りに躱していくサイネだったが、崖崩れのような音の濁流の中、耳が叩き割ってもいない棘が地面から剥がれる音を拾う。

 予感に導かれ、振り払った刃が飛来する棘を撃ち落とす。

 

「くっ……」

 

 怒れる大地という盤面だけが脅威ではない。人を容易く貫いてみせる土の槍は、算盤のメガミが飛び道具とするにはまさにうってつけ。彼女自身も弾雨の陰に隠れ、近づくのは容易ではない。

 作り上げられた、大地のメガミの領域。その支配者に、攻め入られる隙など存在しない。

 当初サイネが抱いていた、得物を持て余していた鎚のメガミから撃破する考えは一転、確かに頭数こそ減ったものの、相手側の連携の甘さはハガネの強化という結果で均衡を互角まで引き戻された形だ。

 

 無論、戦いに熟達した武神二柱であれば、これを捌き続けるだけならば容易い。

 ユリナの事例から考えると、メガミがその身を捧げたとて、力の量自体は一時的にかさ増しされるに過ぎない。英雄譚の終局で天音揺波に託された斬華一閃も、揺波がすぐにメガミに成らなければいずれ消えていたはずだ。

 ハガネの権能が強力になったとしても、それは制限時間付きの力に過ぎない。長期戦になれば必ず打ち倒せるという確信がサイネにはあった。

 

 しかし、時間が限られているのはサイネたちとて同じだ。その現実があるからこそ、彼女は顔をしかめる。

 トコヨたちの陽動は、いずれ崩壊する。彼女たちが圧殺されれば、そのままなだれ込んできた残党にサイネたちも圧殺される。斬首作戦は速攻でなければ成立しない。

 前に進んだヤツハを、ハガネたちが襲うよりはずっとよかった。

 だが、互いに稼いだ時間の価値は、刻一刻と、敵側が重くなっていくのだ。

 

「…………」

 

 研ぎ澄まされた精神が、俯瞰した戦況を受け止める。

 響き渡る大地の鳴動に混じる刃の音は、ユリナのもの。サイネと同じ理解の下、強引に攻め込もうと画策している動きは、けれど先へ続かない幾多の牽制で止まってしまう。

 必死に道を探すその音色が、サイネの耳を強く打つ。

 よく知る好敵手のものなのに、どこか違って聞こえてならなかった。

 

 当然、人であった頃の決闘とはまるで変わっている。互いにメガミになってから初めて鳴らした剣戟とも異なるし、その後十年、二十年に亘って度々交わしてきたどの決闘とも、やはり違っていた。

 そして、最近――サイネが今の姿になった後に行った決闘とも、何かが違う。

 単なる強さだけではない差が、その違いを生んでいる。

 

 サイネが胸中でそれを言葉にしようとすると、ふと脳裏をよぎるのは少し前の自分だ。

 思い起こすのは、抱えることしかできなかった小さな不満。勝利への執着からくる強さを見せつけておきながら、己を高める道から外れ、桜花決闘の舞台を誂えることに夢中になっていた彼女への、小さな不満。

 でも、とサイネの口端が緩んだ。

 

「ふ……」

 

 

 この音色を聞けたのならば。

 そして今、ユリナがこの音色を響かせるならば。

 鋭く吐いた息が、迷いを吹き散らす。

 

 構えるは八相、猛き攻撃の意思。

 解き放った気配が、戦況の変化を否が応でも告げて回る。

 前へ。槍の嵐に真っ向から立ち向かって、前へ。

 いつだって、武神の刃は可能性を切り開いてきたのだから。

 

「このっ……!」

 

 動きを切り替えたサイネに、ハガネの大鎚が大地の槍を砕きながら迎撃を図る。

 だが、横薙ぎにしたその大鎚に対し、サイネの一歩はハガネから僅かに離れた。

 ヂッ、と取り残された長髪が消し飛ぶ。それでも彼女の走りは揺るぎない。

 サイネが選んだ前に居座るのは、厄介な援護を続ける算盤のメガミ。

 後衛めがけ、氷色の軌跡が戦場を駆ける。

 

「おぉぉぉッ!」

 

 ハガネが砕いた土塊が、雹のように降り注ぐ。辺りに林立していた土の槍が、慌てたように鎌首をもたげていく。

 薙刀がその尽くを砕き、水晶が盾となり、それでも残った弾が彼女の四肢を削り取る。

 けれど、穿たれた水晶が放つ残響が、眼前の敵を刻めと、薙刀の刀身を打ち震わせる。

 土中から突き出た槍を紙一重で躱した今、サイネの太刀筋を阻むものは、なにもない。

 

「はぁぁッ、えやぁぁッ!」

「がっ、あがっ……」

 

 閃光と見紛うほどの連撃が、算盤のメガミを切り刻む。引いたり押したりして斬りつける斬撃と異なり、歪で鋭利となった刀身を十全に活かす、刺し穿つことに重きを置いた尋常ならざる戦技である。

 二度三度と薙刀を振るうたび、傷ついたサイネの身体から輝きが弾け飛ぶ。一呼吸の間に乱れ咲いた軌跡は、流麗なる枝を湛えた夜桜の如し。

 

 強引に攻め入ったにもかかわらず、冷静に正確無比な斬撃を繰り出したサイネに、接近戦を得手としない算盤のメガミは抵抗する術を持たなかった。槍の弾幕を前に躊躇するだろうという彼女の計算は、技巧の極地からさらに踏み込んだサイネを前に、儚くも狂わされていた。

 守りにあてがい損ねた桜花結晶が、力なくひらひらと舞い落ちていく。枠が割れた算盤から、珠があられのように散らばっていく。

 

 しかし、膝から崩れ落ちようとしていた算盤のメガミは、残された力で指で珠の一つを弾き飛ばした。

 瞬間、サイネの意識が歪む。

 目の前で崩れゆく算盤のメガミが、どこか遠い。

 

「っ――」

「うおぉぉぉぉッ!」

 

 振り向いた瞬間、威容がサイネに影を落とした。宙を引き裂くかのように飛び込んでくるハガネの手には、身の丈の倍はあろうかという大破鐘。

 間合いが歪みさえしなければ、受ける余地はあるはずだった。

 強行軍で切り返し、ハガネにも傷を残してやれるはずだった。

 今際の際に残した最後の援護が、強烈に過ぎる反撃を生む。

 

「ご、っ――」

 

 サイネの右半身が、押し潰された。腕から響く、めきり、という嫌な音の重奏が、打撃音に掻き消される。

けれど、奏でられるのは破砕音だけではない。

 数々の水晶がその身を砕き、大鎚が生む豪胆な音色を否定するかのように、力強く、それでいて繊細に打ち鳴らされる多重奏。

 

「……!?」

 

 断末魔にしては清すぎるその絶唱は、ハガネが従えていた守りの盾を共鳴させ、耐えかねた結晶たちがさらさらと崩壊していく。

 それはあくまで一矢報いただけなのだと、衝撃に身を任せるサイネの口端が歪む。

 ハガネの手が、その程度のことで止まる道理はない。

 殺された勢いを無理やり吹き込み直し、もう一周した鉄鎚が、転がりゆくサイネを覆い尽くした。

 

「これでぇッ!」

 

 

 衝撃が、大地を揺らした。

 完膚無きまでの破壊に、余波が戦場に生まれた崖をみるみる崩落させていく。

 もはや巨鎚の下を見るまでもなく、技巧の武神の脱落が決定づけられる。

 

 だが、武神は一人ではない。

 ハガネに一矢を報いた、ただそれだけでよいのだと、光に解ける薙刀が物語る。

 サイネに確実な一撃を叩き込んだハガネは、巨大化した鉄鎚の柄にぶら下がる形で自由を失っている。

 その背中に、強靭な一太刀が迫る。

 

「やあぁぁッ!」

「が、ッ……」

 

 鋭い刺突が、ハガネの胴を貫いた。切り払った斬華一閃の刃が、膨大な桜の光を散らしていた。

 ユリナの容赦ない反撃に、ハガネの姿が遠ざかる。頭を起点に鉄鎚を小さくして、少しでも距離を離そうという動きだった。

しかし、一度捉えた得物をユリナが逃がすことはない。迷いなき武神の踏み込みは瞬く間に距離を縮め、ハガネが苦し紛れに生み出した土の槍すらも軽々と避けてみせる。

 

 勝利を確信したその動きが、連撃を成す。

 友が用意してくれた道を駆け抜けて。

 重厚で、強烈な斬撃の嵐が、ハガネを切り刻んでいく。

 

「おおぉぉぉぉぉッッ!!」

 

 その手は止まらない。顕現体の破壊という終わりへ、ユリナの刃は切り開いていく。

 もはやハガネは自身を切り崩して刀を弾くことすらままならず、柄を盾にした大鎚すらも支えきれずに徐々に首を傾げている。

 一柱の犠牲によって、閉ざされていた先を望むことができる。

 そう、最後の一撃に力を込めたときだった。

 

「だめぇぇッ! ハガねぇが死んじゃうっ!」

「……!」

 

 咄嗟に差し出した斬華一閃が、強烈な力の奔流を受け止めた。予期していなかった膨大な衝撃にユリナの身体は押し出されてしまい、慌てて横に逸らす。

 ガガガガッ! と、ユリナを襲った荒れ狂う風の刃が、地面を切り裂く。

 まともに喰らえば、肉片が残るかどうかも怪しい、途方も無い力の発露。

 それを成した少女が、倒れ伏したハガネの盾となるように立ちはだかっていた。

 

「徒寄花は、許せない……でもっ! ハガねぇが死んじゃうのはもっと嫌っ!」

 

 震える身体に鞭打ってでも力を振り絞ったメグミに、ユリナはただならぬ気配を感じて足を止める。刹那の後に、メグミの考えに思い至って思わず顔をしかめた。

 向こう側から来たメガミたちは、前代未聞の存在だ。

 顕現体が破壊されたら実際どうなるのかなんて、誰にも分からない。

 龍ノ宮の地で、メグミは言った。最後まで皆を守りたかった。でも、想いを守ることしかできなかった、と。

 

 彼女は力の制御を未だ取り戻せていないようで、奇妙な形に節が膨らんだ唐竿に、杖のように体重を預けたままだ。

 震えるその手は、何に怯えているのか。

 震えるその脚は、何を恐れているのか。

 それでも、桜に輝くその瞳は、過たずにユリナを射抜く。

 

 瀕死のハガネを守る彼女は、想いを頼りにこの場に立っている。

 想いを賭けて戦う者の強さを、ユリナは知っている。

 

「…………」

 

 構え直した斬華一閃の切っ先が、異史の英雄に向けられた。